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検討結果の反映が鍵に/気候変動予測踏まえた治水対策/ニュースファイル<4>

2017/11/30付 連載・特集
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気候変動による水害リスクの検討が進む一方で、河川整備のさらなる推進に向けた課題もみえてきた
 昨夏の未曾有の災害を教訓に、開発局と道は本年度、十勝川、常呂川の流域をモデルに、気候変動による水害の変化にかかる検討を開始した。11月に開かれた北海道地方における気候変動予測(水分野)技術検討委員会では、将来の気候変動により気温が4℃上昇した場合、年最大降水量は1.2倍増加することを確認。将来気候による洪水量は、十勝川で約1.2倍、常呂川で約1.7倍にのぼることを示した。
 本道においては、1時間当たり30ミリを超える短時間降雨量が約30年前と比べて約1.9倍に。積乱雲が次々と発生する線状降水帯の発生回数が増加している。中山間部においては、急峻な地形により降雨が短時間で河川に流出するなど、浸水被害発生のリスクが高まっている。

リスク周知に意義

 昨夏の台風等災害では、道が管理する中小河川が最も被害を受けた。これを機に、道は7月、気候変動を含めた今後の水防災対策を推進するための基本的な方針の策定作業に着手した。
 「これまでの降雨量を踏まえ、本州や四国、九州などと比べると計画高水流量が小さい」(有識者)とされる道内の河川整備計画。過去の洪水記録によらず、温暖化による気候変動を前提に将来雨量を見越した基本方針、河川整備計画を策定することは、「流域にどのようなリスクがあるかを地域住民に周知する上でも非常に意義がある」(道幹部)と話す。
 ハード・ソフト両面からの治水対策は、防災・減災の観点からも最重要な視点であることは言うまでもない。「ソフト対策も、ハード整備が十分に果たされていればこそ」(道幹部)と言え、整備の推進に当たっては、引き続き河川整備予算の確保が不可欠だ。
 本道の大半を占める中小河川は道が管理しており、管理延長は約1万2千kmと、直轄の約7倍。しかし、道の河川事業費をみると、当初予算と補正予算を合わせて約800億円が充てられた平成10年度をピークに右肩下がりとなる。26年度は約200億円まで減少。整備進捗も、8年度からの5ヵ年で約370kmだったのに対し、直近5ヵ年では約100kmにとどまる。
 開発局や道が、将来気候による洪水量の検討を進める一方で、「検討結果をそのまま河川整備計画に反映させられるかは不透明で、今後の難しい課題」(開発局幹部)とする声も聞こえ、予算確保へのハードルは高い。

適切な評価手法を

 26年8月豪雨による広島市の土砂災害、27年9月の鬼怒川氾濫、ことし7月の九州北部豪雨など、近年は全国的に異常気象による災害が発生している。このため、道や開発局の幹部は、「全国的な視点に立ったとき、本道だけが特別だとは言えず、河川整備予算の増額を実現することは容易ではない」と口をそろえる。
 昨夏の災害では、河川の背後地に広がる農地に甚大な被害が発生。ニンジンやジャガイモ、小麦など、全国に占める北海道シェアが高い農作物が軒並み打撃を受けた。中でも、シェアの9割以上を占めるニンジンは、卸売り数が激減し、価格は前年の倍以上に高騰する事態を招いた。
しかし、費用便益効果を算定する治水経済調査マニュアルをみると、家屋等の資産データや農作物の被害額などを算定する項目はあるが、農作物の付加価値や経済波及効果を算定する指標はない。農林水産物の付加価値向上は、第8期北海道総合開発計画にも位置付けられており、「こうした指標をどのように反映させられるかが、今後の検討課題の一つになる」(開発局幹部)という。

根本的な対策必要

 国の財政制度等審議会では、効率的・効果的な整備のもとに「選択と集中」を加速させる意図が見て取れる一方で、災害等に対して補正予算で対応しているとする。道内の治水担当者らは、「根本的な対策になっておらず、対症療法でしかない」と憤る。
 昨夏の災害時、本道ではいわゆる「56水害」以来の災害として大きな注目を集めたが、首都圏においては野菜の高騰やポテトチップスの生産がストップしたことで初めてクローズアップされた。食料自給率1%の東京を、221%の本道が支える構図が浮き彫りになったと言える。
 気候変動を踏まえた場合、「昨夏を超える大雨も十分にあり得る」(道幹部)中、わが国の食料供給基地をいかに守るか。根本的な治水対策の在り方が問われている。

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