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農地を守り地域を支える/千歳川遊水地群完成/Local Topics 2020③空知・石狩

2020/12/10付 連載・特集
Local Topics 2020 ③画像
治水対策を強化することで、離農者の減少や若者の参画なども期待される

幾多の水害

 2008年から整備を進め、札幌開建、建設業関係者をはじめ多くの人々の力を結集し、12年の歳月を経て、ことしの4月、千歳川遊水地群が完成した。千歳川流域4市2町に整備した計6ヵ所の遊水地群で、総面積は1150ヘクタール、総洪水調節容量は4540万立方メートルを誇る。大雨が降った際、遊水地に河川の水を流すことで、水位の安定化を図る。
 千歳川の治水対策が本格的に計画されたのは、1981年8月上旬に発生した大洪水が契機。いわゆる“56水害”だが、浸水面積192平方キロメートル、被害家屋2683戸を記録し、戦後最大規模の被害となった。元長沼町議会副議長で、農業を営む佐々木信雄さんは、当時の様子を「腰下まで水に浸かった。畑の土や納屋、農業用機械は水に浸かり、壊滅的な打撃を受けた」と振り返る。

流水を貯留

 石狩平野の穀倉地帯を流れる千歳川は、“56水害”だけでなく、2年に1回の頻度で水害が発生。河川勾配が緩やかなため、浸水が長引く特性もある。幾多の水害に悩まされてきた佐々木さんは「いったん農地が水に浸かると、土の状態が回復するまでに数年かかる。遊水地などの整備により、安心して営農できるようになってきていることが何よりも大きい」と喜びを語る。
 千歳川流域の農地は、遊水地の整備などにより、河川水位が安定化したことで、内水被害が低減。実際に、2015年に供用を開始した舞鶴遊水地では16年度に南九号川の流水を125万立方メートル、18年度には南九号川と嶮淵川の流水を43万立方メートル、整備中だった江別太遊水地・晩翠遊水地・東の里遊水地・北島遊水地においても18年に、周辺の農業水路の水位が上昇したことから、44万立方メートルの流水を貯留。河川水位を低減し、浸水から農地を守った。
 佐々木さんは「営農している立場からすると、農地が守られている安心感があり、遊水地の治水効果を肌で感じる。農地の保全が進めば、離農者の減少や、若者の農業への参画につながるのでは」と期待する。治水対策の促進により、千歳川流域では各農家の畑地面積の拡大も進んでいるという。
 長沼町で農業を営む、長沼町治水対策促進期成会の山田文雄会長は「安定した経営基盤があるからこそ、高収益作物に挑戦しようという農家も多くなった」と語る。

高収益作物増加

 一帯では近年、浸水に弱い大豆などの高収益作物の収量が大幅に増加している。農林水産省の作物統計調書によると、大豆の収量は1994年の約900トンから、整備が開始された2008年に約8600トン、17年には約1万2500トンにまで増加した。94年と08年の比較で約9倍、94年と17年の比較では約14倍と飛躍的に増えている。
 千歳川治水対策促進連合期成会の宮田寛会長は「水害の低減により、湿害に弱い、てんさいなどの生産も可能となった」と強調。遊水地の整備をはじめとした治水対策が農業を営む多くの人々に恩恵を与えている。

治水対策は道半ば

 泥炭地で、幾多の水害が発生する厳しい土地だった石狩平野が全国に誇る穀倉地帯となったのは、治水と農業基盤整備などを長年かけて着実に進めてきた結果だ。こう語るのは流域の農業施設等の管理を行っている北海土地改良区の担当者。「多くの人々が努力し、せっかく農業基盤整備を進めてきても、水害が発生したら、これまでの苦労が水の泡になってしまう」と話す。
 長沼町役場の農業部門担当者は「治水安全度を向上させることは重要。治水と農業基盤整備は不可分一体なもの。その歩みを止めてはいけない」と指摘する。
 千歳川遊水地群の整備は千歳川河川整備計画の柱の一つだが、山田会長は「計画自体はまだまだ道半ば」と話す。バックウォーター堤をはじめとした堤防整備と河道掘削、北村遊水地の整備を残しているためだ。さらに、計画に基づいた対策が完了しても、「56水害に対応できるだけで、気候変動による大雨への備えができるわけでない」と指摘する関係者も多く、将来を見据えた中での治水対策を求める声もある。

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