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災害教訓に強靭化の加速を/食料供給基地としての役割踏まえ/LOCAL TOPICS 2018 ⑪十勝

2019/01/11付 連載・特集
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一昨年の台風では、農地のほか、農作物が被災したため、その影響は全国に及んだ。こうした事態を未然に防ぐためにも、強靭化の実現が求められる(写真は佐幌川とペケレベツ川の合流地点)

復旧が順次完了

 2016年8月の連続台風による記録的豪雨で甚大な被害を受けた十勝管内。ことしに入り、国、道、市町村の災害復旧工事が終盤を迎えている。災害後、無残な姿だった公共土木施設は、地域建設業の復旧・復興に対する強い使命感とその技術力により、わずか2年足らずで本来の機能を取り戻しつつある。
 清水町市街地と帯広方面を結ぶ国道38号では、仮橋による車両通行を余儀なくされていた小林橋と清見橋の架換が5月末に完了。通勤時に道路を利用しているという清水町役場の職員は「仮橋の前の急カーブがなくなり、安心してスムーズに走ることができるようになった」とその効果を実感する。
 農業関係の状況をみると、流亡・埋没した清水町御影地区の石山、円山両頭首工の再構築をはじめ、農地の災害復旧工事も8月に終了。河川工事で発生する掘削土砂の無償提供など、関係機関の垣根を越えた連携が功を奏し、大規模な被災から驚異的なスピードで復旧に至った。

投資の必要性証明

 各発注機関の災害復旧工事が順調に進む中、帯広建設業協会の萩原一利会長は「災害に強い地域づくりに向け、2年前の台風被害をもう一度検証する必要がある」と指摘する。激甚化する自然災害からの被害を最小限に抑えるためには「被災要因をきちんと分析した上で、今から強靭化に向けたインフラ整備を進めていくことが重要だ」と話す。
 政府においても今月14日、重要インフラの緊急点検結果に基づく防災・減災、国土強靱化のための3ヵ年緊急対策を閣議決定した。事業規模は財政投融資を含め7兆円程度にのぼる見通しで、初年度となる本年度の対策は第2次補正予算、19、20年度は当初予算の「臨時・特別措置」を活用することとしている。
 一方、帯広市内のある建設業者の社長は「本当の意味で国土強靭化を推し進めるなら、3ヵ年という期間には限界がある。ベースとなる公共事業費を引き上げ、上積みした予算を継続的に確保していくのが理想的」との考えを示す。
 確かに2年前は、財政的制約から改修が思うように進んでいない中小河川の被害が中心で、一定程度の事業費が毎年度投じられ、整備が完了した個所に被害は全く確認されていない。これは、中長期的な安定した公共投資が、結果的に地域の強靭化に結び付いたことを証明した事象となった。

台風災害の爪痕

 一昨年の台風の際、十勝管内では、河川の増水に伴い堤防決壊等が各地で発生。凄まじい勢いで溢れた濁流が周囲の木々をなぎ倒し、道路、橋、鉄道も次々と崩壊させるなど、過去に類をみない深刻な被害となった。さらに、収穫を前にしたジャガイモなどの農作物も軒並み被災し、首都圏などの市場にも野菜の価格高騰という余波が及んだ。
 台風の襲来から時間が経過し、被災の記憶は薄れつつあるが「以前のような肥沃(ひよく)な土壌ではないため生育状況は厳しい。確かに農地は復旧したが、時間をかけて土質を改善し、生育を立て直さなければならない」(芽室町の農家)と、現在も不便を強いられている地域住民も多い。

必要な予算確保へ

 近年は、気候変動の影響により「数十年に一度」という規模の大雨が毎年各地で発生するなど、もはや“異常”が常態化した気象となっている。管内においても再び大きな災害に見舞われる可能性も否定できない。
 わが国の食料基地としての役割を担う十勝が被災した場合の影響は、2年前の状況をみても明らかであり、強靭化に資する整備は急務と言える。安定した社会経済活動や住民の生命・財産を守るための強靭化の予算確保に向けては、その必要性や緊急性を地域一丸となって訴えていくことが求められそうだ。

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