財務省の総額抑制が壁に/公共事業予算の行方/ニュースファイル<5>
2017/12/01付 連載・特集
選択と集中の懸念
30年度予算概算要求は、裁量的経費を10%削減し、残る90%の3割相当分を特別枠で要望できるというこれまでと変わらない枠組みの中で作業が進められた。国土交通省は、対前年度当初比16%増の国費ベースで公共事業費6兆238億円を要求。道開発事業費概算要求額も、18.8%増の6,371億7,700万円を積み上げた。ただ、経済社会情勢に大きな変化が見られない中、多くの関係者からは早くも「対前年度並みを確保できるかどうかの攻防になる」との声が挙がる。26~29年度当初予算における国費ベースの公共事業関係費については、5兆9,000億円台、道開発事業費においても5,300億円台で推移。各年度ともわずかながら増額しているものの、全体額からみれば「横ばい」という見方が大勢を占める。財務省は、「当初予算は、目安を踏まえて安定的に推移している」と説明する。
財務省の30年度予算の編成等に関する建議における社会資本整備の重点課題では、成長戦略に基づくインフラの重点整備、民間活用の推進などを掲げ、首都圏3環状や近畿、中京圏に対し、「重点投資を加速」などとする方向性を示した。
こうした方針は、地方港湾の予算を抑制する一方で、京浜、阪神港における国際戦略コンテナ港湾に重点的に投資してきた経緯と重なる。関係者は「道路などの事業にも、都市部偏重の極端な選択と集中が波及してくるのではないか」と懸念する。予算総額は変わらない中でも、「地域ごとには、ばらつきのある配分となる可能性がある」ためだ。
公共事業費の中でも大きなウエートを占める道路がこうした流れに乗ることは、これまで保たれてきた全国と本道における当初予算の伸率バランスが崩壊することにつながるという危険性もはらんでいる。
実質は減少
一方で、当初予算が横ばいの中、公共工事設計労務単価は継続的に上昇するとともに、土木積算基準などにおける一般管理費も改定。これらは、建設業従事者の処遇改善と個別工事の利益率を上げ、将来の社会資本整備を担う人材を確保するための必要不可欠な施策ということは言うまでもない。ただ、ある発注機関の担当者は「予算額が増えない中では、事業量を切り詰めて対応するしかない」と苦しい台所事情を説明する。“安定的に推移”という言葉の裏では、「実質は減少し、財務省の掲げる総額抑制が着実に進行している」(関係者)との見方もある。
ある建設企業の関係者は、働き方改革、生産性向上を実現するには、「人材確保と設備投資が必要。それには、将来の市場規模を見通すことのできる環境整備が大切」と指摘する。
中長期にわたる公共事業費の見通しを求める声がある一方、現実は、財務省による総額抑制という思惑がある中で、毎年、関係者の必死の努力により、対前年度並みを確保しているのが実態だ。「安心して投資できる環境とはとても言い難い」(建設業関係者)との声も聞こえてくる。
今後、週休2日など働き方改革に基づく施策に対応するため、積算を含めた取組も打ち出されることが予想される。当初予算を現行の水準に据え置くという可能性もある中で、ある発注機関の担当者は「近い将来、現行の工事件数を維持することすら難しい状況に追い込まれるかもしれない」と危惧を抱く。
教訓は生かされず
総務省の27年国勢調査によると、東京、神奈川、千葉、埼玉各都県の人口は3,613万人。総人口の4分の1以上は、東京圏に暮らしているという実態だ。「単純には言えない部分もあるが、効率を最優先し、都市部に公的投資を行ってきた結果」とみる関係者は多い。内閣府が26年に公表した「人口、経済社会等の日本の将来像に関する世論調査」では、東京一極集中を「望ましくない」と考えている人は48%で、全体の半数近くを占めた。しかし、首都機能分散や地方創生といった話題はいつしか議論されなくなり、昨夏の台風災害に対する対策も、「災害復旧という対症療法が中心」(関係者)となりつつある。多くの尊い人命を失った東日本大震災をはじめ、各地の異常気象豪雨、昨夏の台風による大雨災害により食材高騰でクローズアップされた本道の食料供給基地としての位置付けを再認識し、これらを教訓としたとき、投資効率を最優先とする方向は果たして妥当なのだろうか。「喉元過ぎれば熱さを忘れるでは、この国の将来は暗い」(関係者)。年末にも示される政府案は、どのような仕上がりとなるのか。その行方が注目される。
(シリーズ終わり)
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