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増毛港の屋根付岸壁整備へ/BSC工法を道内初実施/Local Topics 2017<8> 留萌

2017/12/19付 連載・特集
Local Topics 2017<8> 画像
BSC散布後1.5ヵ月の状況。施工個所(右)非施工個所(左)との差が一目で確認できる

全道で6港認定

 国土交通省は本年度、港湾における農水産物の輸出を促進するための行動計画の認定制度を創設した。道内では本年度、増毛港を含む道内6港湾の管理者が連名で行動計画を申請。全国で初の認定となった。
 計画では、石狩湾新港と苫小牧港を輸出拠点港湾とし、石狩湾新港を除く5港は連携水揚港湾として屋根付き岸壁を整備し、商品価値の向上を図ることとした。これらの整備を通じ、輸出対象魚種の輸出量増加を図るとともに、魚価については過去10年間の平均以上となるよう輸出競争力を強化。増毛漁協の忠鉢武参事は「石狩からの輸出が叶えば、輸送販路の短縮によってコストの削減にもつながる」と期待する。

地域活性化へ

 増毛港では、国内でも有数の水揚げ量を誇る甘えびをはじめ、たこ、なまこなど様々な魚種が水揚げされ、28年度の総水揚げ高は30億8,300万円にのぼる。豊富な漁獲量を誇る一方で、鳥獣被害や異物混入、日射や風雨による鮮度低下を防ぐ生産・作業環境が不足。これらの条件を満たす屋根付き岸壁の整備が求められてきた。
 増毛港では、ハード対策として本港地区のマイナス3.5メートル弁天岸壁において、延長90メートルの屋根付き岸壁の整備を計画。増毛町の堀雅志町長は、増毛港の衛生環境が向上し、輸出力が強化されることによって「収量が伸び、所得も上がる。町の一次産業を支える担い手が生まれていくことも期待できる」と先を見据える。
 増毛町は、豊富な海産物に加え、温暖な気候を生かした水稲栽培、りんご、さくらんぼなどの果樹栽培も盛んに行われている。忠鉢参事は「水産物の輸出を通して“増毛産ブランド”が向上すれば、農産物の輸出促進にもつながるのでは」と話す。港湾整備によってもたらされる恩恵は、地域活性化への起爆剤となる可能性を秘めている。

植生の早期回復

 留萌振興局農村振興課と日本工営(株)はことし7月、シート状の土壌微生物の集合体であるバイオロジカル・ソイル・クラスト(以下、BSC)を活用した浸食防止工法(以下、BSC工法)の試験施工を、道内で初めて実施した。
 日本工営(株)と土木研究所が共同開発したBSC工法は、土壌藻類を培養して乾燥・粉砕した資材を散布し、BSCを早期形成することで侵食防止を図り、周辺の自然植生の侵入を促すもの。土壌侵食が発生しやすい環境において自然植生の早期回復、表土保全を図ることができる。
 同課が整備を進める増毛町の信砂地区は、今春の出水期、区画整理に伴い形成された法面から流出・落下した土砂・石礫の堆積を確認。受益者から法面対策の相談が寄せられていた。
 これを受け、同課は道内初となる試験施工を信砂地区で実施。受益者によると、わずか2ヵ月で「非施工個所との違いが明らかに見て取れる様子で植生が進んだ」。設定条件を変更した上で10月にも再度試験施工を行ったところ、同様に植生が進行。通常の吹付工よりも高い効果を確認した。
 施工を担当した日本工営によると「資材の散布は通常の吹付工と同様に行うことが可能」。特殊な機器を必要とせず、施工を請け負う建設業者に対する負担も発生しない。
 今回の試験施工は寒冷地での適用性検証も兼ねている。今後は、来春の融雪期を待ち、寒気と融水による植生への影響について調査を進める方針。BSC工法の適用性が証明されれば、施工後の法面対策をはじめ、土取場や無整形法面の保護など「今後期待される効果は多岐にわたる」(同課)という。
 同課はBSC施工実施に向けた関係機関との条件整備を進めている。石礫を含む土層を有する地区において、管内の実績次第で早ければ30年度にも同工法を活用した法面保護を取り入れたい考えだ。

受益者向け冊子も

 植生による表土保全は、出水期に発生しやすい堆積土等を抑制するため、農繁期に突入する春先の労力を大きく軽減することにつながる。夏季に草刈作業が必要となる場合もあることから、地元の意向として吹付工を施さない場合もあるとはいえ「BSCは施工後初期の礫落下を防ぐには非常に効果的」(同課)という。
 一方で、面工事にかかる費用は地元負担。施工実施には受益者の理解も必要になる。同課は、日本工営とともにBSC工法の概要を説明する冊子を作成中。関係者は、安心・安全な農業農村整備の一翼を担う存在として全道に普及していくことに期待を寄せている。

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