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業界一丸で担い手の育成を/風力でまちづくり ― 稚内市/Local Topics 2017<9> 稚内

2017/12/20付 連載・特集
Local Topics 2017<9> 画像
57基の風車が稼働する市内最大の発電施設「宗谷岬ウインドファーム」
 年間平均風速が7メートルを超える稚内市では、しけや冬期の視程障害など、その強風が市民生活に大きな影響を与えている。一方、その風を有効活用しようと市内では現在、官民合わせて74基の風車が稼働。市内の年間電力消費量の85%に相当する7万6千キロワットの電力を発電している。
 市は再生可能エネルギー活用の取組をさらに加速させるため、ことし4月に「再エネを活用したエネルギー地産地消モデル構築事業」を創設。8月に道の支援事業の認定を受け、再エネを活用したまちづくりに向けて動き出した。
 同事業では、市所有の風車の老朽化が進んでいることから、新たに出力2千キロワットの風車1基の新設を計画。発電した電力を北電の送配電網を活用し、庁舎や温水プールなどの公共施設20ヵ所程度に供給する。余剰電力は蓄電池や水素に変換し、大規模停電時などに使用。総事業費は14億3,400万円で、うち道の補助が5億円となっている。
 市はことしの9月補正予算において、モデル事業関連費に8,300万円を計上。風力によって発電した電気の公共施設への供給に当たり、各施設の電力使用状況などのデータを収集し、適切に電力を供給できるようエネルギー管理システム(EMS)を構築する。
 30年度は各施設のEMS運用を開始してデータ解析を行うほか、風車新設に向けて風況調査などを実施する。31年度にはEMS運用の施設を順次追加し、風車や蓄電池の製作にも着手する。32年度には新風車を据付し、33年度から電力の融通を開始するスケジュールを描いている。

民間主導で売電

 市は事業の実施に当たり、将来的には民間主導の地域新電力への事業主体の移行を考えているという。公共施設だけではなく「市内の工場や一般家庭に安く売電することが理想」(市職員)。現在、民間風車で発電した電気は、北電を通じ旭川など電力需要の大きな都市へ流れており、市民からは「これだけ風車があるのになぜ自分たちで使えないのか」という声も。
 民間事業者では、30年度から3万キロワット規模の天北風力発電所を稼働させる予定で、市全体の風力発電量は市内の消費量を上回ることになる。市環境エネルギー課の佐伯達也課長は「安く供給できなければ事業の意義が薄れてしまう。民間から余った電気を安く買い取ることができれば、市民の期待に応えることができるはず」とし、真の意味での“地産地消”を目指す。地域新電力については、本年度中に検討会を立ち上げ議論していく見通しだ。
 地産地消モデルの課題の一つに、水素の活用方法がある。水素ステーションは1ヵ所の設置に5億円、年間維持費に5,000万円ほど必要とされ、佐伯課長は「現在の一般的なステーションの導入は厳しい」との見方を示す。ただ、風力という不安定電力を貯蔵可能な燃料へ転換できる利点は大きく、貯蔵容量が小さい安価なステーションやトレーラーによる移動式ステーションなどの方策を模索していく。
 これまで市民を悩ませてきた稚内の風。再エネへの注目が高まる中、まちづくりの“追い風”となるよう、取組を展開していく。

普通高から職人へ

 稚内建設協会(藤田幸洋会長)が取り組む若手技術者研修会は、ことしで3年目を迎えた。研修会では、業界の基礎学習のほか、測量やCADなどの実習も行っている。工業系高校のない宗谷管内。普通科高校の卒業生を技術者として育成しようという協会の試みは、担い手不足解消の突破口となるか、注目が集まる。
 受講した若手技術者からは「研修の測量実習のおかげで、現場に出て測量するときに設置から計算までスムーズにできた」「他社に同年代の友人ができ、情報共有に役立っている」などの声が。一方で「内容が難しかった」との意見もある。1年目は現場を体験させ、その後研修を受けさせて内容の理解度を高める活用法を考える会社もあるようだ。

学校も後押し

 稚内大谷高校では、新たに電気基礎と土木施工基礎の工業科目を設置。土木は31年度から授業を開始する。管内業者から外部講師を招いて授業を行い、在学中の2級施工管理技術検定(学科)の合格を目指す。越後屋亨教頭は「地域の要望から設置に至った。建協と協力し、地域を担う人材を輩出したい」と意気込む。
 地域の理解・支援の輪は確実に広がっている。老田秀樹常務理事事務局長は「北海道建設業信用保証(株)の助成は来年度までだが、その後も独自財源を確保し研修会を続けていく。業界一丸で担い手問題に向き合っていかなければ」とさらなる意欲をみせており、挑戦の行く先に注目が集まる。

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