無残な姿「崩土と倒木との闘い」/迅速な初動が円滑復旧導く/未曽有の自然災害に挑む〈1〉
2019/09/10付 連載・特集
昨年9月6日未明に発生した北海道胆振東部地震は、道内で観測史上最大となる震度7を記録した。道内全域での停電、いわゆるブラックアウトが情報収集を困難とする中、震源に近い厚真町、安平町、むかわ町では、甚大な被害が想定された。開発局は、すぐさまヘリコプターを飛ばし、厚真町を上空から撮影。そこには、地すべりによって赤茶色の肌をむき出しにした山々、膨大な土砂が家屋、道路、河川を埋め尽くすといった無残な姿が次々と映し出された。災害復旧に携わる行政関係者は「これは崩土と倒木との闘いになる」と口をそろえた。官民が対応に奔走
回線の輻輳などで携帯端末による通話もつながりにくい状態が続いたが、開発局は、地震発生直後からTEC―FORCE(リエゾン)を派遣。道においても、職員の安否確認を行った上で、早急に道路維持業者へのパトロールを指示した。室蘭建管苫小牧出張所をはじめとした職員も出動し、被災状況に関する情報の収集・整理、通行規制などの対応を行った。「まずは、河道閉塞の解消作業と道路啓開を進めた」と道の担当者は振り返る。厚真川に架かる幌内橋付近では大規模な土砂が流入。河道を埋め尽くし、一刻も早い土砂の撤去が求められた。道道上幌内早来停線では、大規模な土砂に家屋や道路本体がのみ込まれていた。日高幌内川上流部は、大規模な地すべりで河川がせき止められ、延長約1.4キロメートルにわたる“天然ダム湖”が出現した。
緊急復旧は、室蘭建設業協会の会員企業が中心に作業を進めた。厚真川の河道閉塞解消に向けては、開発局や道などの発注機関、地域建設業が奔走し、「かき集められるだけの重機を最大限投入した」。発災からわずか数日で、バックホー約70台が稼働し、早期の河道閉塞解消につなげた。
室蘭建管はもとより、室蘭開建、自衛隊なども連携しながら、人命救助を最優先しつつ、緊急車両の通行を可能とするために必要な倒木処理や路面段差の解消などの啓開作業を展開。緊急復旧に携わった室蘭建協の中田孔幸会長は「発注官庁との連携はもとより、幾多の災害を経験し、地域に精通しているからこそ、素早い対応ができたのでは」と振り返る。
日高幌内川で発生した天然ダム湖に対しては、道が国土交通省に直轄砂防災害関連緊急事業として着手を要望。国交省は素早く対応し、大規模な山腹崩壊の発生したチケッペ川、東和川を含め直轄事業で対策を講じることを決めた。
開発局は、直轄砂防事業を実施する推進体制を構築するため、室蘭開建に厚真川水系土砂災害復旧事業所を設置。天然ダム湖には、仮排水路を設置することを決定した。出水期までの完成を目指し、地域建設業と連携しながら、フル稼働で作業に当たった。
なお、被災状況の把握に努めたTEC―FORCE(リエゾン、JETTを含む)は、延べ3064人にのぼった。
早期の営農再開へ
一方で、最大震度7のエネルギーは、完成を翌年度に控えていた室蘭開建所管の勇払東部地区の厚幌導水路に甚大な被害を与えた。厚真ダムには大量の土砂が流入。被災当時は、「来年の営農は絶望的」との見方が広がっていた。営農再開という課題を克服すべく、室蘭開建と地域建設業は、厚幌導水路で撤去を予定していた取水施設の補修などを行い、仮設水路を布設。用水路がつながっていない個所では、トラフ等で代替し、営農用水を確保した。
厚真ダムでは、洪水吐に堆積した土砂を撤去し、ダム本復旧に向けた仮排水機能を確保。迅速かつ早急な対応で、ことしの営農再開につながった。宮坂尚市朗厚真町長は「町の基幹産業である農業は復興のシンボル。営農再開に尽力した関係者の皆さんに心から感謝したい」と話す。
本復旧工事に移る
厚真町が所管する公共土木施設の被害も過去に例を見ない規模に及んだ。宮坂町長は、町の技術職員が不足している現状も踏まえ、道に対して復旧に向けた支援を要請。道は、迅速かつ効率的な復旧に向け、町施工分の一部を代行発注することとした。その後、開発局は、勇払東部地区に加え、早来地区の緊急復旧を完了させた。ことし2月には、10月から22回にわたって実施した災害査定も終了し、被災個所は道と市町村合わせて504ヵ所、決定額は458億6200万円に。被害が甚大だった厚真町の被災個所は159ヵ所、被害額は104億7200万円となった。日高幌内川の天然ダム湖の解消に向けた仮排水路も出水期前に完了。舞台は、本復旧に移る。
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