トップページ > 連載・特集一覧 > 連載・特集詳細

札幌市の総合評価拡大/負担軽減や担い手確保がカギに/ニュースファイル2019〈1〉

2019/12/09付 連載・特集
図表・過去5年間における総合評価適用工事の契約金額と適用割合

くじ引き抑制

 中期実施計画のまちづくり戦略ビジョン・アクションプラン2019素案に、競争入札に占める総合評価落札方式工事の割合を15%から20%に拡大する方針を盛り込んだ札幌市。14年度の品確法改正により、これまでも総合評価の実施割合を徐々に拡大してきたが、アクションプランの計画期間である19~22年度の4ヵ年で5%引き上げることとした。
 背景には、ことし、2期目の当選を果たした秋元克広市長の公約の一つである「地元企業の受注拡大に努め、入札・契約制度の改善を行う」との方針がある。さらに、総合評価がくじ引き入札抑制につながる効果もあることから、適用拡大にシフトした。

一括審査適用増へ

 市の担当者は、総合評価のさらなる拡大に当たり、一括審査の適用増をポイントに挙げる。価格競争と異なり、総合評価は審査書類が多くなる傾向にあることから、「受発注者双方にとって負担軽減がカギとなる」(前同関係者)ためだ。
 一括審査型は、入札参加要件や総合評価の評価基準を共通化できる複数の工事をまとめ、一括して審査・評価する。このため、事務の効率化につながる。
 18年度の一括審査型適用件数をみると、実績を評価するⅠ型は38件、地域貢献を評価するⅡ型は49件。入札・契約の担当者は「今後は、土木系工種の適用件数を増やすことを通じ、20%の目標を無理なく達成したい」と話す。一括審査では、落札した参加者を落札以降無効扱いとする“一抜け方式”を採用しているため、受注者の偏在を防ぐ効果もねらう。
 ただ、市の場合、一括審査の工事は、基本的に3件以上を一グループとして発注しており、「同規模の工事で、発注のタイミングを合わせることが必要なことから、適用が難しい場合もある」とする。今後は、本年度実施する入札参加者へのアンケート調査結果を踏まえ、一括審査型の適用件数拡大に向けた検討を進める。

人材育成型の課題

 一方で、土木部門の担当者は「新規学卒者の雇用状況などを加点評価する人材育成型の適用件数を増やし、喫緊の課題である建設業における人材確保の取組を誘導していきたい」と話す。現在、策定作業中の仮称・建設産業活性化プランに「総合評価を充実し、技術力の向上や企業の人材確保の取組などの積極的に取り組む企業を支援する」と明記しているためだ。
 市所管工事における総合評価は、施工能力や地域貢献を評価する実績評価Ⅰ・Ⅱ型、一括審査Ⅰ・Ⅱ型、人材育成型など8つの型式を運用。18年度の市長部局における適用状況は、実績評価Ⅰ型22件、実績評価Ⅱ型9件、一括審査Ⅰ型38件と、品質確保を目的とする実績評価型、一括審査Ⅰ型の適用が中心となっている。対して人材育成型は、10件にとどまる。
 総合評価の拡大に合わせ、人材育成型を増やしたい考えだ。今後、総合評価の運用を取りまとめている財政局契約管理課と調整する方向で検討している。
 しかし、人材育成型の拡大に当たっては課題も多い。市長部局発注工事における総合評価のくじ引き発生件数をみると、人材育成型は10件中、20%に相当する2件で発生。土木工事に限ると、3件のうち、2件でくじ引きとなり、6割超の発生率となっている。
 人材育成型を除く発注実績のある6型式のくじ引き発生率は6.1%。人材育成型のくじ引き発生率は格段に高い状況だ。入札・契約制度の担当者は「他の型式に比べ、評価項目や配点区分が少ないため、点差がつきにくい」と分析する。
 人材育成型でくじ引き入札が発生した土木工事2件における参加者の得点状況をみると、「新規学卒者の雇用状況」など8項目中、5項目で満点を獲得。対して、「女性技術者の活用状況」をみると、すべての入札参加者が得点できていない。得点差が生じないことから、市の関係者は「現行のままでは拡大は難しく、何らかの見直しは必要」とみる。

絶えず検証が必要

 市は、22年度までに総合評価の割合を20%にすることを目標にしているが、拡大のペースなどについては、受注者アンケートなどを踏まえながら、見極めていく方針。入札・契約の担当者は「総合評価などに入札・契約全般については、絶えず検証、評価、改善を繰り返しながら、運用していきたい」と話す。

その他の連載・特集 一覧

災害体験 人材育成に生かす仕組みを/より強靭な基盤整備へ/未曽有の自然災害に挑む〈4〉

2019-09-13付 連載・特集

―災害復旧事業の現在の状況、今後の見通し、課題について 公共土木施設関係では、厚真町として本年度約100億円の予算を計上した。これと合わせて国、道もそれぞれ災復事業を実施することとなったが、1ヵ所に複数の事業主体が重なる場所もあるので、被災...
厚真町長宮坂尚市朗氏画像

担い手確保・育成へ事業量安定不可欠/緊急対応 明確な役割分担を/未曽有の自然災害に挑む〈3〉

2019-09-12付 連載・特集

―災害対応を振り返って、地域の守り手としてどう行動し、役割を発揮したか 発災当日、直ちに協会役員の安否確認を行い、災害対策本部を設置した。その時点で、国や道で年間の維持工事を請け負う会社に発注機関から直接連絡が入り、すでに緊急対応を実施して...
室蘭建設業協会会長 中田孔幸氏画像

輻輳する現場、安全確保が最優先課題/垣根を越えた連携不可欠/未曽有の自然災害に挑む〈2〉

2019-09-11付 連載・特集

円滑な事業執行へ連絡協議会設立 厚真町内の本復旧に向けては、330万立方メートルにのぼる膨大な崩土の運搬と、限られた区域で施工するための工程調整が最大の鍵となっている。施設管理者も多岐にわたり、発注者の垣根を越えた連携が不可欠に。情報共有の...
災害復旧特集2

無残な姿「崩土と倒木との闘い」/迅速な初動が円滑復旧導く/未曽有の自然災害に挑む〈1〉

2019-09-10付 連載・特集

 昨年9月6日未明に発生した北海道胆振東部地震は、道内で観測史上最大となる震度7を記録した。道内全域での停電、いわゆるブラックアウトが情報収集を困難とする中、震源に近い厚真町、安平町、むかわ町では、甚大な被害が想定された。開発局は、すぐさま...
厚真川幌内橋付近で緊急の土砂除去作業

地域の魅力高めるために/働きやすい職場づくりへ官民一体/新任開建部長リレーインタビュー⑦稚内 舘石 和秋氏

2019-06-26付 連載・特集

―管内の印象と新任の抱負 宗谷地域は厳しくも豊かな自然を生かし、ホタテをはじめとした水産業や酪農業、観光業が盛んであるほか、近年は風力などの再生可能エネルギー事業にも取り組んでいる。宗谷産のホタテは北海道から輸出される農水産物の多くを占め、...
舘石 和秋氏画像

地域の発展 知恵絞りたい/直面する諸課題解決へ手を携え/新任開建部長リレーインタビュー ⑥網走 村上 昌仁氏

2019-06-25付 連載・特集

―管内の印象と新任の抱負について 第8期北海道総合開発計画の目指す“世界の北海道”を実現する上で、「食」・「観光」の資源が豊富であり、地域のポテンシャルの高さを感じている。地域の戦略的・魅力ある産業として継続的に発展...
村上 昌仁氏 画像

業界の魅力 広く発信/災害対応の体制整備が重要/新任開建部長リレーインタビュー⑤帯広 竹内 正信氏

2019-06-21付 連載・特集

―管内の印象と新任の抱負について 十勝での勤務は5年ぶり2度目となるが、当地は元気があり、自主自立の気風を強く感じるとともに地域として一体感があると思う。 十勝の地は農業、酪農、畜産および観光などでポテンシャルが高い地域であり、それらの発展...
竹内 正信氏画像

建設業の持続的発展重要/安全・安心確保へ手を携え/新任開建部長リレーインタビュー④旭川 鹿嶋 弘律氏

2019-06-20付 連載・特集

―管内の印象について 大学を卒業し農林水産省に入省して以来、東京を中心に数度の出向や地方勤務も経て、30年目にして初めての地元勤務。その当時と比べ、道内の高速道路や高規格道路などのインフラ整備は進んだようにみえるが、まだ整備途上のところも多...
鹿嶋 弘律氏画像