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医療機関の再編・統合/高速道路拡充が至上命題に/ニュースファイル2019〈2〉

2019/12/10付 連載・特集
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本道に適した医療提供体制とは何か。国への報告期限が迫る中、早急な議論が進められている

全国最多54ヵ所

 厚生労働省は9月、全国の公立・公的医療機関などを対象に再検証要請対象医療機関のリストを公表した。過疎地域の人口減が深刻化している状況を受け、直近の診療実績をもとに地域の医療需要を分析し、全国自治体に急性期機能や病床数などの再検証を要請。対象医療機関は424ヵ所にのぼり、北海道からは全国最多の54ヵ所をリストアップした。
 リスト公表後、厚労省は全国8会場を巡回し、各自治体と地域医療構想に関する意見交換会を開催。北海道会場で説明に立った鈴木健彦地域医療計画課長は、再検証について「医療機関の統廃合やダウンサイジング、機能分化の方向性を機械的に決めるものではない」と前置きし、再編・統合を要する場合は20年9月までに報告するよう求めた。
 国が再編・統合の議論を要する公立・公的医療機関を公表するのは「極めて異例」(医療関係者)。各自治体は急な対応に追われているが、一部の有識者は「民間が代替機能を備えている地域は特に、公立・公的医療機関の再編・統合を進めるべき」との見方を示す。一方、過疎地域の住民からは、医療提供体制の弱体化を不安視する声が多く、道幹部は「公益性を見極め、慎重に議論しなければ」と強調する。

過疎地域の窮状

 再検証の論点は、①診療実績が特に少ない②構想区域内に類似の医療機関が複数存在し、所在地が近接している ― の2点。これらのうち、いずれかを満たすものは「代替の可能性を有する」と評価し、再編・統合を視野に検討する。
 道内21の圏域ごとに設置した地域医療調整会議を通じ、対象の医療機関や地域住民、有識者の意向を調査。人口や年齢バランス、産業構造などが地域によって大きく異なる本道では、比較検証は難しいというが、「高次医療施設へのアクセス環境の向上を求める声は全圏域で聞かれる」(道幹部)。
 過疎地域から高次医療施設への救急搬送は大きな課題だが、ドクターヘリの受け入れ体制が不十分な地域も多く、“命の道”とも評される高速交通ネットワークの整備拡充を求める声は根強い。医療関係者は「過疎地域と首都圏を結ぶルートの整備が鍵」と改善策を提示する。


速達性向上は不可欠

 本道における高速交通ネットワークの整備状況をみると、ことし4月時点の開通率は64%と、全国の88%と比較して大きく立ち遅れている。鈴木直道知事は3定道議会の代表質問において、救急搬送の観点からも高速交通ネットワークの重要性にふれ、「供用区間の4車線化を実現するとともに、整備拡充に向けて国への要望活動を強化していく」と方針を示した。
 対象医療機関の4分の1を抱える渡島・檜山地域を例にみると、救急搬送先の75.4%を函館市が占める。年間の救急搬送の件数も断続的に伸びており、道央圏への移動時間を踏まえると、渡島西部地域および檜山地域から函館市への速達性の向上は不可欠と言える。
 再検証の対象医療機関にリストアップされた木古内町国民健康保険病院の職員は、高速交通ネットワークの整備拡充を強く望む。道南地域では現在、21年度の開通を目指し、函館市から木古内町を結ぶ函館江差道の整備が進められており、「地域住民からも早期完成を求める声は多い」と状況を示す。
 道東地域においては本年度、道横断道端野高野間が事業化。道横断道は、オホーツク地域で最も人口が多い北見市まで延伸する。事業を所管する網走開建によると、管内唯一の3次救急医療施設として地域を支える北見赤十字病院の60分カバー人口は、網走市で99%に上昇する見通し。網走市の職員は「交通障害の発生が多い現道と比べて、救急搬送への安心感は格段に高まる」と期待する。
 高齢化が進み、過疎地域の医療提供体制が変化する中、過疎地域と首都圏を結ぶ高速交通ネットワークの整備拡充は、国全体で取り組むべき重要施策と言える。今後の動向に注目が集まる。

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