「ウポポイ」待望のオープン/開業効果波及へ取組推進/Local Topics 2020⑤胆振・日高
2020/12/14付 連載・特集
ことし7月12日、国立民族共生象徴空間(愛称・ウポポイ)がオープンした。開業記念式典では、当時の菅義偉内閣官房長官が「アイヌの名誉や尊厳を保持し、次世代に継承する極めて重要な施設」と役割を強調。鈴木直道知事は「オール北海道でウポポイの魅力を発信していきたい」と力強く語った。ウポポイは、アイヌ文化の復興に関する中核的な役割を担う施設。わが国の貴重な文化でありながら、存続の危機に直面しているアイヌ文化の状況を踏まえ、2009年の「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」報告において整備が提言された。
総事業費約200億円にのぼる国家プロジェクトは、14年の整備および管理運営に関する基本方針の閣議決定を受けて本格化。施設の建築にかかる設計は15年度、工事は16年度に着手し、19年度までにすべて完了した。
交通環境整備進む
交流人口の増加を見据え、室蘭開建、室蘭建管、白老町は、道路拡幅をはじめとした事業を展開。開建は、36号苫小牧市樽前から白老町社台までの2車線区間4.8キロメートルの4車線化を実施した。当該区間の所要時間は33分となり、開通前と比較して6分の短縮に。建管と町も歩車道の拡幅整備を施し、交通アクセスの改善を図った。建管は、開業後の7月から8月までの間に3回、ウポポイ前を走る白老大滝線で交通量調査を実施。完成前と比べ、交通量は1.5倍に増加したものの、交通の混乱は確認されなかった。家族旅行で道路を利用したというドライバーは「道幅が広くて快適」と話すなど、各機関の連携事業により円滑な交通流動が実現した。
戸田安彦町長は、アクセス性が高まったことで「多様化する観光ニーズや地域経済の活性化にも寄与している」と事業の効果を実感している。
民間投資誘発も
施設の建設に当たっては、立地条件を生かした工夫も。主要施設である「国立民族アイヌ博物館」の2階パノラミックロビーからは、ポロト湖が一望でき、建物内部から雄大な自然が実感できる設計に。体験交流ホールはアーチ曲線を描く屋根が特徴的で「大自然の風景と重なって、見ていて楽しい」(来園者)と反応は上々だ。北海道アイヌ民族文化財団によると、11月末現在の来園者数は18万人超。コロナ禍の影響を受けながらも、8月後半から道内の学校による教育旅行で利用者が増加し、ピークとなった10月は232校、1万9657人の児童生徒が訪れた。修学旅行で来園した札幌市立幌東小学校の児童は「伝統工芸品などの仕組みを知ることができた」とアイヌ文化に親しんでいた。財団では、本年度内に728校、6万8357人の受け入れを見込む。
白老町の調査では、本年度上期に町内を訪れた観光客数は延べ100万2460人となり、前年同期と比べ2.4%増加。新型コロナの影響によって各観光地の入込客数が伸び悩む中、「ウポポイの開業が上積みにつながった」(担当者)との考えを示す。
民間投資の誘発にもつながっている。長野県に本社を置く(株)星野リゾートは、観光ニーズの高まりをにらみ、町内で新リゾート「界ポロト」の建設事業を展開。地上4階延べ4906平方メートルの温泉旅館(客室42室)を建設中で、ことし5月に着工し、22年1月の開業を目指している。
観光復活の起爆剤
年間来場者数100万人という目標を掲げたウポポイ。2度にわたる開業延期をはじめ、開業後も入場を制限しながらの運営を余儀なくされているが、「認知度は着実に高まっている」(関係者)。同財団民族共生象徴空間運営本部の中村佳弘参事は、来場者数の底上げを図るため「感染症対策を徹底しながら、文化体験プログラムなどをさらに充実させたい」と話す。国土交通省北海道局においても来年度予算に関連費用を計上する方向で調整している。新型コロナの終息は依然として見えないが、戸田町長は「今後もウポポイを核としたまちづくりに総力を挙げて取り組んでいく」と強調。官民による一連の取組が実を結び、道内観光復活の起爆剤となり、経済の活性化などに寄与していくことが期待されている。
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