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初等中等段階での教育が重要/学校からみた建設産業のかかわり/前・道教委学校教育局長 北村 善春 氏 インタビュー

2018/03/23付 連載・特集
道教委学校教育局長北村善春氏インタビュー画像
道教委学校教育局長 北村 善春 氏
 ことし第2回北海道建設産業担い手確保・育成推進協議会が開催され、建設産業の生産性向上と担い手確保の具体的対策の推進が再確認された。本紙は、協議会に参画している北村善春 前・道教委学校教育局長に対し、初等中等教育段階の建設産業のイメージアップの必要性、学校教育と関連付けた体験の重要性など、学校現場と建設産業の今後の連携の在り方について聞いた。北村氏は相互の情報交流の促進から、「新たな取組をつくりだしていくことが可能となる」と訴えた。

―建設業界の担い手不足は深刻です。学校教育の観点からみて、人材確保・育成には、何が必要でしょうか。
 子どもたちの勤労観や職業観を育てるためには、将来、働いて生きていくことに関して、小・中学校のときから、何を経験させ、何を考えさせることが必要なのか。このことについて、学校教育の関係者と産業界とが一緒に考えることが大切だと感じています。
 例えば、札幌駅前通地下歩行空間で行われている「建設産業ふれあい展」は、非常に良い取組だと思います。しかし、体験した子どもたちの「楽しかった」という思いを、「働く」ということを考える段階にまでつなげるための仕組みづくりが、さらに必要ではないでしょうか。
 近年、就職を希望する高校生に対する求人数は、平均で1人当たり約2社という状況です。子どもたちや保護者にとって、魅力ある職場や職業というものを一律に定義することは難しいことです。中学校や高校において職業理解等の目的で実施しているインターンシップや職場見学なども、体験するだけでは効果がみられない場合もあるのではないかと感じています。
 建設業界等の協力のもとに行われているこれらの取組は、子どもたちにとって職業理解の最初の入り口となることから、非常に意義あることだと感じています。さらに、子どもたち一人ひとりが「働くということは、どういうことなのか」と考える段階に至るよう、学校教育と連携した発展的な取組が必要だと考えています。

―建設産業への理解を深めてもらうためには、どのような取組が必要でしょうか。
 「その地域の中で生きていくということは、どういうことなのか」について、小・中学生や高校生のときから考えるためには、地域で生きている大人の人たちとふれあいながら、建設産業が地域の形成にどのようにかかわっているのかなどを実感できる学びが、非常に重要だと考えています。
 例えば、小学校の図工の授業に、地元の建設業の方がゲストティーチャーとして来校し、一緒に橋の模型をつくる中で、地域で実際に行われている橋梁工事の完成までの苦労、完成したときの感動、住民の方にとってのインフラの意味などにふれることで、「建設産業の技術力はすごい」「自分たちの生活を支えている仕事」などという理解につなげることも可能だと思います。
 道教委ではこの3年間、「小中高一貫ふるさとキャリア教育推進事業」に取り組んできました。子どもたちが地域とかかわりながら、地域を知り、地域に誇りをもって、地域を支える人として成長してほしいとの願いを込めて実施しているものです。
 取組の中では、地域の産業と自分たちの生活とのかかわり、その仕事のやりがいなどを理解するとともに、地域の方々からリスペクトされていることなどについても実感すると、「自分もその中で生きてみたい」という思いをもつ子どもも出てきます。
 このように、初等中等教育段階においては、ふるさとを基盤としたアイデンティティーをどのように育み、将来の生き方にどのようにつなげていくのかを意識した教育が非常に重要です。
 このようなことを踏まえ、私たちは、これからの事業の中で、地域が抱える課題を、高校生が地元自治体や企業のほか、大学等との協働によって、解決方策を提案していく取組を推進しようと考えています。この取組は、ただ提案して終わりではなく、具体的に解決を図る当事者としての意識と実践力を育てたいと考えています。そのためには、その過程を経験できるように地域にも協力していただかなければなりません。
 地域が一体となって子どもたちを育てる取組は、その地域の在り方を地域に住むあらゆる年齢層、職業・立場の方々がかかわって考えていくことになるので、まさに、地方創生の原点になると考えています。
 今日の子どもたちは、非常に課題意識が高く、当事者としてかかわる役割を与えると、驚くような成果を挙げます。一例として、工業高校生によるプログラミング教室の開催があります。学習指導要領の改訂によって、32年度からプログラミング教育が必修化されますが、高校生が企業と協働して小学生に対するプログラミング教室を開催した事例があります。
 その経験から、IT企業に関心をもち、就職につなげた生徒も出るなど、今の若者には、こうした意欲があるように思えます。
 したがって、私たち大人は、働く意義や目標に向かっていく若者の価値観と具体の職業とをマッチングさせていく出会いを、可能な限り構築していく責任があると痛感しています。

―働き方改革に対応した人材育成をどのように考えていますか。
 日本は、全体の人口、子どもの数が減少し、今後は、労働力不足が一層深刻になるものと予想されています。このことから、一人ひとりの生産性を上げる上でも、ICTの活用が、非常に重要と考えています。
 学校教育現場においても、「ICTの活用による情報活用能力の育成」が必要とは言うものの、建設産業のどのような場面でどのような活用がなされているのか、また、どのような能力や技術が求められているのかを、教員が正確に理解していなければなりません。
 私としては、ぜひ、こうしたリアリティーを学校現場に伝えていただきたいと感じています。そうすることで、授業や指導にも具体性が生まれ、建設産業にも興味・関心をもつきっかけにもなると思います。
 社会基盤を担う建設産業の役割は非常に重要であり、そこにかかわる人材が枯渇すれば、社会自体が成り立ちません。
 本年度、道教委では、道産業教育審議会から「本道におけるグローバル人材の育成に向けた産業教育の在り方について」の建議を受け、今後、学校と社会とを円滑に接続させる人材育成システムの構築などについて取り組んでいくことや、皆さんの課題意識などを踏まえ、意見交換させていただきながら、人材の育成に取り組んでいきたいと考えております。
 例えば、今回、掲載いただいた紙面に、複数回のシリーズとして、高校が企業等と連携して実施している建設産業の人材育成の現場や生徒などの声を掲載するほか、建設産業界からも学校教育に期待することなどを掲載していただき、相互の情報交流を促進し、そこから新たな取組をつくり出していくような連携も可能ではないかと考えております。
 

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