i-Conへの想い 熱く冷静に/株式会社 岩崎 古口聡社長に聞く
2018/04/04付 連載・特集
ICT施工本格化へ情報化施工推進戦略が10年前の2008年国土交通省より打ち出された。その主な目的は、安全な施工、品質の確保、労働力の不足解消、現場の生産性向上であった。さらに、2012年にはCIM(土木における3次元データの活用)が推進され、2016年にはLS、UAVを活用した3次元出来形管理要領をはじめとしたi-Constructionが推進された。
国土交通省北海道開発局によると2017年度ICT活用工事は合計で92件と年々拡大しており、調査結果によると2016年度のICT土工による施工効率は、全国平均で起工測量から完成検査まで延べ28.3%の作業時間が削減されている。
また、2018年度には小規模工事や河川のICT浚渫工、ICT舗装工への対応、技術基準の改訂によるレーザースキャナー搭載のUAV、移動型レーザースキャナー、TSノンプリズムの活用等、生産性向上に向けて新技術の活用も積極的に行われていくようだ。
3次元計測の新技術活用への検証に向けて
しかし、新技術を活用するにあたっては当然検証しなくてはならないことがある。特に、計測に関しては使用環境を考慮した精度検証、測定する対象物の形状に適した測定方法の選定が重要となる。これらを踏まえて、計測精度の担保を第一に考えなくてはならない。
弊社では、様々な計測方法とその精度や計測時間、後処理の時間等を自社のフィールドもしくは実際の工事現場における数多くの3次元地形計測と3次元出来形計測を通じて、検証してきた。また、公共事業以外の民間の地形等の計測業務も経験してきている。これらの計測は、計測方法の規定がある場合を除いて、その計測範囲、計測対象物、計測精度を考慮した計測方法を選択または、複合的に利活用して、効率的かつ要求精度を担保しなくてはいけない。最終的には、それぞれの解析により得られる3次元点群データを合成するが、事前の基準点測量、評定点やターゲット版の設置と座標の測量を全体の整合性を確保しつつ行わなくては、合成がうまくいかない。この様な経験を数多くの現場で重ねてきた弊社としては、今後i-Constructionの対応をより効率的に進めるためのご提案をしていきたいと考えている。
3次元出来形計測はなぜ必要か
情報化施工推進戦略が打ち出されて間もなく、道路改良工事に情報化施工を導入していただいたことがあった。大規模な土工工事の実績はすでにあったものの道路土工での本格的な導入は日本では初めてだったと記憶している。
その際、いろいろな課題に直面したが、その中でも大きな課題となったのが、施工精度の管理である。現在は、GNSS衛星数の増加、基地局からの補正情報の無線送信等が改善され位置精度が向上したが、当時は2 ̄3cmの誤差は避けられない状態であった。従来どおり、出来形は管理断面を計測する方法であったため、管理断面の精度と見た目の仕上がりに関する評価を重視し、現場管理者も必要以上の施工精度と見た目に神経を注がざるを得ない状況であった。
従来施工では、丁張の設置や盛土の巻出し厚の計測、法面整形においては、重機オペレーターの熟練度はもとより、重機の近傍で精度確認を行う人、オペレーターが重機を乗り降りして確認する等必要以上に精度確認のために、安全や生産性を犠牲にしていたと思われる。ICT施工の品質、安全、生産性向上を生かすためには、部分最適を検証する検査要綱を新しい技術のメリットを生かしかつ品質の担保を行うための検査方法にすることが必要である。以上のことを考慮すると3次元出来形計測の要領は品質の担保という観点からも最適であり、ICT施工の長所を生かすうえで、画期的なものであると言える。
TLS (地上設置型レーザースキャナー)の特徴と課題
3次元出来形計測で、最初に検討され平成28年に出されたのが「レーザースキャナーを用いた出来形管理要領」(土工編)(案)である。その主な理由は、計測精度確認が十分にでき、その管理要領の目的及び仕様に耐えうることが最初に確認できたためと考えられる。
TLSは非常に高い精度で計測できるが、ほぼ平らな場所(道路土工では天端部)の計測を行う場合に注意が必要となる。LSの製造メーカの推奨する測定距離の精度範囲以上には計測不能であるが、「TLSを用いた公共測量マニュアル」(案)平成29年3月国土交通省国土地理院 第51条(三次元点群データの標高較差の許容範囲と観測条件)によると水平面において、TLSの器械高を平均的な1.5mとするとレーザ光の水平面への入射角2度、水平面で概ねレーザ光が良好に計測してくれる50m 先(入射角1.7 度)が数mmの誤差範囲内で観測できる事を基準とするとなっている。もう一つの問題点は器械の鉛直下半径数十cm範囲で観測できないエリアが生じるので、少なくとも50mごとに計測する必要が出てくる。例えば、1kmの路線の出来形(天端部)の計測に器械設置、観測、移動を、平均20分として19回観測すると380分となり、約1日(6時間20分)時間が必要となる。高い精度は確保できるが、計測に時間を要する特徴を持つ計測方法といえる。器械高を高くする等の対処により測定時間の短縮が必要となる。一方、法面、コンクリート構造物、トンネルの内腔等を広範囲にかつ高精度な計測が可能である。
UAV航空写真測量の特徴と課題
UAVによる写真測量は、計測時間は非常に短くて効率が良いように感じる。しかし、気象条件により、計測精度が大きく左右される。雲の出現により連続して写真撮影をするときに明るさの変化による特異点の抽出がうまくいかない。風速4m以上になるとUAVの機体のぶれが激しくなり、鉛直下を撮影するために設置されているジンバルがカメラのレンズを鉛直下に保持できなくなる。本来、写真画像はカメラの撮影位置の鉛直下を撮影することを前提としているため、画像処理ソフトは、このようなばらつきを補正して3次元データを作成してくれるが、出来形計測などの要求精度の範囲を超えてしまうことがある。また、風の強い地域などにおいて風速10m/sを超える場合など、UAVの帰還不能が考えられ飛行自体が不可能となる。さらに、画像解析処理をするために、処理能力の高いパソコンが必要になったり、解析処理時間が想像以上にかかったりする。従って、レーザースキャナー計測が困難な場所、計測範囲が広い、高い精度を要求されない、気象条件が良い地域等の条件によっては、非常に威力を発揮できる計測方法といえる。今後、飛行安定性の高いUAVの開発が待たれる。
MMSの特徴と課題
次に、MMS(モバイル・マッピング・システム 移動体計測)に関してだが、ここでは弊社所有のシステムIP-S3(TOPCON社製)の評価について述べる。一般的に、MMSは自動車にラインレーザースキャナー、複数台のビデオカメラ、RTK-GNSS(リアルタイム衛星測位システム)、IMU(加速度センサー)、ODOメーター(タイヤの回転数を計測)、データ記録用パソコン等を搭載することで構成されており、走行しながら自動車の周囲データを計測し、記録するシステムのことを指す。
特徴としては、走行しながら3次元データを計測できるので、TLS(地上設置型レーザースキャナー)と比べて、高速に3次元点群データを取得することが可能だ。RTK-GNSSとIMUは、位置情報とその時間を計測する。LSは、点群データとその時間を記録する。後処理において時間軸により測定座標とLSで計測した相対的な座標を測量座標系に変換することで、広範囲の点群データを取得することができる。 しかし、この方法も計測する車両の速度、走行する路面凹凸等が誤差要因となる。 さらに、GNSSの受信できない場所においては、誤差が非常に大きくなるので、補正情報が必要となる。また、精度向上のためには、測定する場所に評定となるターゲットや特異点をあらかじめGNSS、TS等で計測し測量座標を付与し、後処理をする際に座標補正処理をすることが必要となる。
レーザースキャナー搭載のUAV課題と将来性
平成29年3月に国土交通省より無人航空機搭載型レーザースキャナーを用いた出来形管理要領(案)が出された。計測する仕組みはMMSと同様である。RTK-GNSSとIMUにより位置情報とその時間を計測する。LSは、計測した点群データとその時間を記録する。後処理において時間軸により測定座標とLSで計測した相対的な座標を測量座標系に変換することで、広範囲の点群データを取得することができる。UAV航空写真測量との違いは草木がある場所で計測した場合、草木の間をレーザ光がすり抜けて地表面に達することが出来れば、計測後の点群処理をすることにより、草木がある場所でも、地面を推定することが可能となる。また、TLSが設置不可能な場所での計測等用途が広がると考えられる。しかし、UAVより安定性の良い車両にレーザースキャナーを搭載したMMSでの計測データを見ても、路面状況が不良になると、10数cm以上の誤差が出ることがわかっている。結論としては、移動体の安定性が計測精度に影響する。即ちUAVの飛行安定性により精度は良くなり、また、IMUの精度にもよるが、UAVに搭載されているIMUにて観測されるヨー、ピッチ、ロール方向の振動を何処まで補正できるか、また、風に影響を受けにくいUAVの開発がこのシステムの可能性を大きくすると考える。
3次元設計データの必然性
十数年前弊社で情報化施工、特に3DMC、3DMGを北海道に普及させるあたり、最初に取り組んだのが3次元設計データの作成だった。そして、土工工事で比較的形状が複雑な道路改良工事の設計データに取り組んだのが始まりである。周知のとおり、3次元設計データなしにでは、ICT対応の建設機械も通常の建設用重機と変わりないものになってしまう。簡単な面の造成ならば、重機のオペレーターによって、その場で設計データを入力しながら施工する事が可能ではある。3DMC・MGのメーカでもあるTOPCONの協力を得ながら実験を繰り返し、前述の道路改良工事の情報化施工の導入に至った。ICT施工にとって3次元設計データは不可欠なものである。
3次元データの利活用(CIMへの発展)
このように3次元CADシステムを使用して様々な土木現場の3次元データを作成するうちに、現場において、3次元データの共有、新規入場者教育での利用、協力会社・重機のオペレーターとの情報共有、時間軸を入れた施工シミュレーション、走行シミュレータに3次元データを渡して車線規制等の走行安全性視認、渋滞予測シミュレータの活用などが可能になった。
この様に、3次元データの活用は生産性向上のためには必然で、国土交通省は2012年にCIM(Construction Information Modeling)を提唱し、土木全般に3次元データの推進を開始した。また、最近ではヘッドマウントディスプレイを利用したVR・ARの利用も、広がりを見せ、現場での情報共有、発注者との打ち合わせ、現場説明会、安全教育のツールとしても広がりを見せている。今後、発注者側の人員不足解消と成果物の品質管理の向上のため、国土交通省では全国的に3次元CADを導入した。3次元出来形計測データをはじめ3次元設計データの活用を目指しているようだ。
現場技術者によるCIMデータの作成・ICT技術の広がりを応援する。
国土交通省では、都道府県、政令指定都市を中心にi-Constructionの普及を推奨している。今後加速する我が国の少子高齢化、10年後に顕著となる現場技術者の定年退職等を踏まえ、建設現場の生産性向上はますます必至になる。このようにこれから訪れる課題に対処するため、ICT施工、CIM、3次元計測を包括したi-Constructionに現場技術者が自身で対応することが必要となってくる。このようなニーズに対応するため「iLab(アイラボ)」(弊社オリジナルコンテンツをウェブ上で提供する会員制有料サイト)を新年度よりスタートする。
■ソフトは持っているが誰も使っていない
■⾃社でデータ作成したいが操作⽅法がわらない
■トレーニングを受けてもすぐ忘れてしまう
■ 3次元データの作成を効率化させたい
■重機・仮設材・桝などの部品が欲しい
■発注者と3Dで簡単に打合せをしたい
■新技術に関する情報収集をしたい
この様なお客様の要求にお応えするために、今まで蓄積したノウハウや土木3次元CAD等の教育プログラムを体系化して多くのお客様に提供していくことを目的としている。
生産性向上、安全、完全週休2日制、そしてインフラ整備による地域貢献に役割を果たしていくことが必要である。今後、若手や女性技術者の採用等、課題は山積しているが建設業界のみならず、労働環境の整備と生産性向上を進めなければ人手不足の解消はままならないと感じる。
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