トップページ > 連載・特集一覧 > 連載・特集詳細

公共事業予算の行方/長期的な投資の方向性を/ニュースファイル2019〈5〉

2019/12/12付 連載・特集

 政府は5日、頻発・激甚化する災害への対応と経済の下振れリスクを回避するため、事業規模で26兆円の経済対策を閣議決定した。行政関係者は「補正と当初、臨時・特別の措置を含めた2020年度の公共事業関係費は、19年度並みとなるのでは」と予想する。本道における20年度公共事業費は、補正と当初を含めた実執行の事業費ベースで9000億円規模となる可能性が高くなっている。
 

21年度以降が焦点

 しかし、大半の関係者は「問題は、21年度以降の予算だ」と口をそろえる。消費税率引上げによる景気の落ち込みを回避するために設けられた臨時・特別の措置が20年度で終了するとみられているためだ。
 全国の公共事業関係費における臨時・特別の措置を含めた19年度当初予算は、国費ベースで18年度当初比15.5%増の6兆9099億円。うち、臨時・特別の措置は、8503億円にのぼる。臨時・特別の措置を除いた通常分の公共事業関係費は1.3%、わずか8億700万円の増にとどまる。
 公共事業関係における臨時・特別の措置は、概ね7兆円の事業費を投じるとした防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策(以下、緊急対策)の財源となっている。
 ことし10月に関東・東北を中心に甚大な被害をもたらした台風19号による豪雨災害の直後、政府・与党関係者からは緊急対策の延長を求める声が相次いだ。しかし、政府の経済対策に関する検討が進められる中、延長に関する議論は一気にトーンダウン。行政関係者は「財務省が相当抵抗しているのでは」と分析する。一部では「延長を見送った」との見方も出ており、情勢は厳しさを増している。

苦しい台所事情

 一方で、20年度は、緊急対策に加え、第4次社会資本整備重点計画(以下、社重点)、インフラ長寿命化にかかる行動計画の終了年度に当たる。11月下旬には、自民党幹部が、菅義偉官房長官に対し、防災・減災対策を計画的に進めるため、10年以上の長期インフラ整備計画の作成を要望。菅長官は「しっかり受け止めた」と応じるなど、今後、インフラ整備にかかわる各種計画の策定に向けた動きが加速するとみられる。国の関係者は「後継の計画で事業費を盛り込むことができるかどうかが、今後、最大の焦点になる」と展望する。
 ただ、25年度の基礎的財政収支の黒字化を目指す財務省の姿勢は厳しい。ある期成会関係者は「中央要請で上京した際、“要望にお応えしたいが、お金がありません”とはっきりと言われた」と振り返る。
 経済財政諮問会議においても、社会資本整備を巡る議論は、PFIやコンセッション収入をインフラ整備に再投資するアセットリサイクルなど民間資金の活用にシフトしつつある。
 国債発行の累計額が900兆円に迫る中、「財政規律を考えると、明確な財源がない中で、社重点などで長期的な事業費の見通しを示すのは相当ハードルが高い」とみる関係者は多い。近年の経済対策が、いかに少ない国費で、事業費を膨らませるかに力点が置かれていることからも苦しい台所事情がうかがえる。
 10年以上の長期インフラ整備計画を策定したところで、事業費という財源の担保が示されなければ「画餅に期すことは想像に難くない」(関係者)と危惧を抱く。

社会資本の蓄積

 しかし、忘れてはならないのは、今回、台風19号で発生した豪雨に対し、利根川や荒川において、ダムや河川改修などこれまで蓄積してきた社会資本ストックが破堤を防ぎ、多くの住民の生活と資産を守ったという事実だ。長期的な視点に立ち、計画的な整備を進めてきた成果と言える。先人たちによる将来世代への地道かつ着実な投資が導いた効果にほかならない。
 財政面においても、悪化の大きな要因は、社会保障など“公共事業費以外の歳出”に充てる特例国債の大幅な増加だ。建設国債の累計額は、この20年間で約4割、75兆円増にとどまっているのに対し、特例国債は5.2倍、467兆円の増加と比較にならないほど膨らんでいる。
 公共事業による社会資本整備を将来世代に対する投資と考えたとき、現在の方向性は、未来を考えたものとして妥当なのだろうか。将来、確実に訪れるであろう気候変動による大雨災害をはじめ、防災・減災、国土強靱化、インフラ老朽化対策は待ったなしの課題だ。将来に禍根を残すことがないよう、長期的視点に立った議論と投資の具体的な方向性が求められている。

その他の連載・特集 一覧

道内有料高速道路の4車線化/採算性・機運醸成 事業化の命題に/ニュースファイル2019〈4〉

2019-12-12付 連載・特集

4区間136㎞選定 国土交通省がことし9月に発表した「高速道路における安全・安心基本計画」では、概ね10~15年かけて有料高速道路の暫定2車線区間を順次4車線化する方針が打ち出された。優先整備区間のうち、道内分は道央道の八雲~国縫間17キロ...

防災・減災対策を推進/気候変動予測し事業効果向上/ニュースファイル2019〈3〉

2019-12-11付 連載・特集

治水対策を強化 大型自然災害に伴う被害が断続的に発生する中、各関係機関は公共インフラの整備を柱とする防災・減災対策の推進に力を注いでいる。政府はことし6月、国土強靱化年次計画2019を策定。本道を襲った16年夏の台風や18年7月豪雨、北海道...
ニュースファイル2019画像

医療機関の再編・統合/高速道路拡充が至上命題に/ニュースファイル2019〈2〉

2019-12-10付 連載・特集

全国最多54ヵ所 厚生労働省は9月、全国の公立・公的医療機関などを対象に再検証要請対象医療機関のリストを公表した。過疎地域の人口減が深刻化している状況を受け、直近の診療実績をもとに地域の医療需要を分析し、全国自治体に急性期機能や病床数などの...
ニュースファイル画像

札幌市の総合評価拡大/負担軽減や担い手確保がカギに/ニュースファイル2019〈1〉

2019-12-09付 連載・特集

くじ引き抑制 中期実施計画のまちづくり戦略ビジョン・アクションプラン2019素案に、競争入札に占める総合評価落札方式工事の割合を15%から20%に拡大する方針を盛り込んだ札幌市。14年度の品確法改正により、これまでも総合評価の実施割合を徐々...
図表・過去5年間における総合評価適用工事の契約金額と適用割合

災害体験 人材育成に生かす仕組みを/より強靭な基盤整備へ/未曽有の自然災害に挑む〈4〉

2019-09-13付 連載・特集

―災害復旧事業の現在の状況、今後の見通し、課題について 公共土木施設関係では、厚真町として本年度約100億円の予算を計上した。これと合わせて国、道もそれぞれ災復事業を実施することとなったが、1ヵ所に複数の事業主体が重なる場所もあるので、被災...
厚真町長宮坂尚市朗氏画像

担い手確保・育成へ事業量安定不可欠/緊急対応 明確な役割分担を/未曽有の自然災害に挑む〈3〉

2019-09-12付 連載・特集

―災害対応を振り返って、地域の守り手としてどう行動し、役割を発揮したか 発災当日、直ちに協会役員の安否確認を行い、災害対策本部を設置した。その時点で、国や道で年間の維持工事を請け負う会社に発注機関から直接連絡が入り、すでに緊急対応を実施して...
室蘭建設業協会会長 中田孔幸氏画像

輻輳する現場、安全確保が最優先課題/垣根を越えた連携不可欠/未曽有の自然災害に挑む〈2〉

2019-09-11付 連載・特集

円滑な事業執行へ連絡協議会設立 厚真町内の本復旧に向けては、330万立方メートルにのぼる膨大な崩土の運搬と、限られた区域で施工するための工程調整が最大の鍵となっている。施設管理者も多岐にわたり、発注者の垣根を越えた連携が不可欠に。情報共有の...
災害復旧特集2

無残な姿「崩土と倒木との闘い」/迅速な初動が円滑復旧導く/未曽有の自然災害に挑む〈1〉

2019-09-10付 連載・特集

 昨年9月6日未明に発生した北海道胆振東部地震は、道内で観測史上最大となる震度7を記録した。道内全域での停電、いわゆるブラックアウトが情報収集を困難とする中、震源に近い厚真町、安平町、むかわ町では、甚大な被害が想定された。開発局は、すぐさま...
厚真川幌内橋付近で緊急の土砂除去作業