現場に役立つ研究を最優先/研究者が高い意識もてる環境へ/新任インタビュー<2018>③ 寒地土木研究所長 柳原 優登氏
2018/06/21付 連載・特集
寒地土研では第4期中長期計画(28~33年度)に基づき、17の研究開発プログラムの事業に取組んでいる。研究機関の役割は「建設現場のイノベーション」。技術開発や技術者のマニュアルとなる指針を整理し、道路・河川・港湾・農業等の様々な部門で寒冷地の生産性向上と新技術の標準化に努めている。研究成果は、全国からも高い評価を得ており、今年就任した柳原優登所長に抱負と今後の取組を聞いた。―寒地土研の取組について
寒地土研は、昭和12年に前身となる国の試験施設が発足。平成13年には独立行政法人化し、18年につくばの土研と統合となった。現在は、うまく独自性を確保しつつ、統合のメリットが出ているように思える。これからは、人材確保が大きな課題で、補完しながら貢献していくことが大切と考えている。研究所では第8期北海道総合開発計画における「世界の北海道」を目指し、“北海道発”の寒冷地技術を道内や国内外へ普及推進を図っている。研究事業の柱となる第4期中長期計画では、「安全・安心な社会の実現への貢献」「社会資本の戦略的な維持管理・更新への貢献」「持続可能で活力ある社会の実現への貢献」の3つが目標だ。
―就任に当たっての抱負は
「イノベーション」とは、生活や産業を飛躍的に向上させるという意味だが、最初は使うのにちゅうちょがあったが、研究所に来て技術等を新たに標準仕様に変えていくこともイノーベンションなのだと教えられた。研究者がイノベーションの仕事にかかわっているという高い意識と責任をもてる環境づくりを進めていきたい。人口減少が進む20年後、30年後でも、豊かな環境・景観、健全な産業活動があって、北欧のように幸福感が味わえる生活ができるよう、イノベーションを通じて貢献していきたい。それにはインフラの役割がとても大きい。開発局、道、自治体や研究機関、大学と連携していきたい。
―人口減少社会の中で、生産性向上を可能にする研究の意義は大きいと思うが
調査・設計・工事の現場で手をこまねいているものを技術開発し、マニュアルを整理する。これは技術者のニーズに応えるもの。現場に密着し役立つ研究が最優先というのが大学との違いであり、生産性向上の視点でも最も大切なこと。例えば、スマホで見られる3Dハザードマップ作成などの防災関係、コンポジットパイル工法のような耐震補強や軟弱地盤対策など低コストの施工方法の研究、施工マニュアルづくりなどの技術者の指針となるものを“つくば”と“うち”で手分けしながら整理している。
医療分野におけるがん治療の研究もガイドラインが整備され、地方の病院でもできるようになる。我々の仕事は、地方レベルでも大きく貢献していると自負している。
特長的なところでは、生産空間や地域に貢献できる地域景観ユニットの研究を進めている。国立の研究機関で景観を研究している機関はあまりなく、市町村の景観条例を策定する時の助言などができればと思っている。
また、農業の生産基盤の取組においては全国レベルで、研究成果を広く発信している。大区画ほ場の管理技術で、水田に埋設した暗渠管から地下水を表土に給水する地下水位制御システムの管理技術を開発した。これにより水稲の直播きの拡大を支援でき、人手がなくても生産性が上がるようになる。その技術は本州でも十分活用できるものだ。
―業界に向けて
寒地土研は講習会、講演会だけではなく、実験施設や実験装置の貸し出しや民間企業との共同研究も行っている。民間会社のCSRを目的とした共同研究、地域課題の解決策を協働で出来ればと思う。研究所として、そういう貢献の仕方もあるのかなと思っている。※寒地土木研究所は、札幌市豊平区平岸に、敷地面積3.4ヘクタールの研究施設があり、所員230人が働いている。道内には苫小牧試験道路(苫小牧)23.4ヘクタール、石狩実験場(石狩市)37.1ヘクタールなど5施設の実験施設を有し、日々、研究開発に取り組んでいる。
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