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基盤整備が支える農業のICT化/三笠ぽんべつ着工再開求める声/Local Topics 2019〈2〉空知

2019/12/13付 連載・特集

スマート農業導入へ着々と環境整備

 ことし8月、岩見沢市内で行われたスマート農業技術現地実演会に鈴木直道知事が訪れた。11月には、大区画化による高精度のICT農業を展開すべく、2008年から整備を進めてきた札幌開建所管の国営農地再編整備妹背牛地区の完工式が挙行された。近年、空知管内でスマート農業による営農が盛んになっている。
 スマート農業は、ロボット技術やICTを活用して省力化や精密化を進めた次世代農業を指す。岩見沢市と妹背牛町では、GPSシステムを搭載したトラクターによる作業、レーザーレベラーによる鎮圧、集中管理孔による地下かんがいシステムを導入。ほ場の水位を地下かんがいシステムにより管理することで直播が可能となったことや、大区画化とGPSによる正確かつ効率的な作業を通じ、作業時間は従来と比べ、6~7割の大幅な削減につながっている。
 いわみざわ地域ICT農業利活用研究会会長で、先進技術を活用して農業を営む西谷内智治さんは「家族で大規模経営できているのは、作業が格段に効率化するスマート農業のおかげ」と話す。一方で、スマート農業を行う上で「基盤整備は欠かせない」と強調。「どれだけICT技術が発達しても、しっかりと整形されたほ場でなければ効果が得られない」と指摘する。
 北大農学研究院で長年スマート農業に関する研究を続けてきた野口伸教授も「小さく不成形なほ場でスマート農業は難しい。導入には基盤整備が不可欠」としつつ、「採算を確保するには、ある程度のスケールメリットも大切」と指摘する。
 野口教授は、スマート農業に必要な基盤整備について、大区画化に加え、ロボットトラクターがほ場の外で旋回する“ターン農道”や用排水路の管路化、集中管理孔を設置した暗渠の地下かんがいシステムを挙げる。
 集中管理孔による地下かんがいシステムは、直播が可能となることに加え、田植え前に土塊を砕く“代かき”を回避できるメリットもある。代かきによるほ場のダメージがなくなることで、輪作しやすくなるという。水田直播、無代かきにより、これまで実現が難しかった米・大豆・秋まき小麦・なたねの4年4作のいわゆる“空知型輪作”が可能となった。
 一方で、作業の大幅な削減と輪作など収益向上につながるスマート農業だが、「いまだに農家自体が、その有効性に気づいていない場合も多い」(関係者)との声もある。ターン農道の設置に対しては、大型機械の旋回よりも「作付面積が狭くなる」(農家関係者)ことにデメリットを感じる営農者も多いという。
 広大な大地を有する空知管内において、スマート農業は経済発展の起爆剤となりつつある。空知総合振興局の担当者は、農家へのスマート農業に関する周知とともに、「各地区の条件に応じたきめの細かい整備が必要だ」と話す。西谷内さんは「これから担い手が減少し、1戸当たりの営農面積が増加する中で、スマート農業は必須であり、基盤整備も不可欠となってくる」と展望する。

ダム本体着工保留

 ことし8月に行われた開発局事業審議委員会で「本体着工を一旦保留」との方針が示された三笠ぽんべつダム。1990年から幾春別川総合開発事業として流域の安全を守るとともに、広域に水を供給する役割を果たすべく事業を推進してきたものの、物価上昇等の不可避事象が生じていることなどを理由に、着工保留となった。
 これに対し、三笠市の西城賢策市長は「市民の安全のためにも、ダムの再着工を」と要望する。幾春別川総合開発促進期成会の会長として、着工保留を受けて提出がかなわなかった要望書を再び取りまとめ、提出に向けた検討を進める方針としている。
 ことし10月に発生した台風19号の豪雨災害で、江戸川区域に甚大な被害をもたらす恐れのあった雨水をため込み、流量調整の役割を果たした八ッ場ダムの例からも「災害が起きてからでは遅い。何かが起きる前に完成させてほしい」(三笠市民)との切実な声も上がる。着工再開に向けた地元の期待は大きい。

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